■ 木造軸組工法での建て方工事の手順や期間を知りたい人
■ 家づくりで失敗や後悔したくない人
こんにちは!建築士のしみゆうです。
基礎工事が完了したら、次は建物本体の骨組みとなる建て方工事に移ります。
特に、木造軸組工法での建て方工事は上棟とも呼ばれ、
戸建住宅の工事の中でも花形ですし、短期間で建物の全貌が明らかになるので、この日を心待ちにしているお施主さんも多いのではないでしょうか。
中には、仕事を休んで、家族ぐるみで現場見学をされる方もおられます。
今回は、戸建注文住宅で最も多い工法である、木造軸組工法の建て方工事に於ける「手順」や「期間」「チェックポイント」について解説します。
建て方工事(上棟)に於ける手順や期間とチェックポイント
一口に建て方工事といっても、「住宅会社の建物の仕様」や「大工の棟梁の経験」などによって「工程」や「手順」が変わることも多いのですが、
最近、増加傾向にある「剛床」や「構造用合板」を取り入れた、木造軸組工法での建て方工事を例に説明を進めます。
①土台敷き
まず最初は、土台敷きと呼ばれる工程です。
完成した基礎の立ち上がりの上部に、床下換気口の代わりとなる「基礎パッキン」を設置して、その上に「土台」や「大引」と呼ばれる木材を設置するのですが、
基礎の立ち上がりの無い部分の木材は、鋼製束と呼ばれる金物を使って支えるのが一般的です。
以前は、「根太」と呼ばれる補強材を数多く使っていましたが、
今回は、床板に24㎜の「構造用合板」を用いる剛床(根太レス工法)を採用しているので、根太はほとんど用いられません。
建て方工事で用いる木材には、組み合わせるための「仕口」と呼ばれる加工が必要なので、昔の大工さんは数ヶ月かけて事前に準備をしていましたが、
近年は、プレカットと呼ばれる、木工機械をつかった工場での加工が主流になったので、大工さんの手間も随分と軽減されました。
②床断熱材の設置
土台敷きが完了したら、「土台」や「大引」の間に断熱材を設置する工程です。
床下の断熱材には写真のような板状のものを使うことが多いのですが、種類や厚みによって断熱性能も違うので、
特に、「寒冷地」や「次世代省エネ基準」といった高い断熱性を求められる場合は、ウレタン系断熱材を使用することが多くなりました。
もし、断熱材に欠損部分があると断熱性能が大きく低下してしまうので、丁寧な施工が要求される工程です。
「暖かい家に住みたい」や「冷暖房の効率を上げたい」という要望がある場合は、
断熱材を高性能なものに変更したり、サイズアップを図って断熱性能を向上させる方法が、コストパフォーマンスに優れていておススメです。
③1階床板の施工
床断熱材の設置が完了したら、床の構造用合板を釘で留める工程に移ります。
一般的な建て方工事では、①から③までの工程を1日で完了させることがほとんどです。
この後に、上棟に必要な仮足場の設置が完了したら、次の工程に進みます。
すでに、仮足場の設置が終わっている場合は雨対策にもなるので、翌日に上棟を行うことがほとんどです。
④1階柱の施工
いよいよ、上棟当日に行う工程です。
まず最初に、1階の柱を立てることから始めるのですが、
この日は、朝からレッカー車の設置もありますし、たくさんの木材が順番に搬入されるのでかなりあわただしく、人通りの多い場所ではガードマンさんも活躍することになります。
現在では、木材と木材の接合部は仕口だけでなく、写真のようなL字金物なども利用して補強を行うのですが、
他にも、接合部の補強には「ホールダウン金物」や「筋交い金物」などと呼ばれる様々な種類の金物があるのですが、どの場所にどの金物を取り付けるのかは、構造図面を見ることで確認することができます。
日頃の木工事は1~2名の大工さんで作業を行うのですが、上棟日には応援の大工さんも加わり5~10名での作業となります。
たくさんの大工さんで一気に建物の骨組みを組み立てる光景は圧巻なので、楽しみにしておいて下さいね。
⑤1階梁の施工
1階柱の仮置きの後は、1階の「梁」や「胴差し」などの横架材を組み立てる工程に移ります。
この工程では、梁に加工された「ほぞ穴」に、柱の「ほぞ」をはめ込むことで組み立てるのですが、
そのままの状態ではグラグラしてしまいますし、柱も垂直に立っていないので、「仮筋交い」と呼ばれる木材を斜めに取り付けて固定します。
「梁」や「胴差し」の接合部には仕口以外にも、写真の「羽子板金物」などを用いて強度を確保します。
この工程で、1階のタチ(垂直)の精度が悪いと、柱が斜めになってしまい建物全体が歪んでしまいます。
このチェックは大工の棟梁が行うのですが、棟梁の腕の見せ所とも言えます。
⑥2階床板の施工
1階部分のタチ調整が完了したら、2階の床板を設置する工程です。
以前は、先に建物の骨組みを組むことが多かったので、2階床板の設置は後回しになってしまうため、大工さんの落下事故も少なくなかったのですが、
2階の床板を早い段階で設置する剛床の採用が増えているので、安全性も確保され落下事故も減少しています。
更に、最近の建て方工事ではレッカー車の利用が増えており、一度にたくさんの床板を建物内に運び入れることができるので、時間短縮にも効果があります。
先に2階床板を施工するようになって、安全性が向上しましたし、
「以前に比べて、ずいぶん仕事がやりやすくなった。」と話している大工さんも多いですね。
⑦2階柱の施工
2階の床が出来上がったら、2階の柱を立てていきます。
「柱」や「梁」には、「いろは記号」や「番号」が記されているのですが、その記号は建て方図面と呼ばれる上棟専用の図面に記載されているので、
大工さんは建て方図面を見ながら作業を行うことがほとんどです。
プレカットが導入されて、大工さんの仕事もずいぶん楽になりましたが、まだまだ全ての加工をプレカットに任せられる訳ではありません。
今でも、「細かい調整」や「木工機械で加工できない部分」は、現場で大工さんが手を加えながら作業を行っています。
⑧2階梁の施工
2階柱の設置後は、2階の「梁」や「胴差し」などの横架材を組み立てる工程です。
ここでも1階と同じように、仮組の後に大工の棟梁が柱のタチを調整します。
写真は、建築金物の中でも強度の高い「ホールダウン金物」なのですが、建物の四隅のような強い引き抜き力がかかる部分に設置します。
3階建ての建物の場合は⑥~⑧の工程をもう一度繰り返すことで、階数を増やすのですが、基本的に上棟は1日で完了させたいので、2階建より3階建ての方が大工さんのスピーディさが求められます。
ですが、人数を増やせばスピードが上がるというものではなく、適度な人数と大工さん達のコンビネーションが大切です。
⑨小屋組みの施工
次に、屋根の骨組みである、小屋組みの工程に移ります。
写真に写っている、屋根の一番高い部分に用いる横架材が「棟木」です。
この棟木を設置する(上げる)ことを上棟と呼ぶのですが、これで当日の工事が完了する訳ではなく、建て方工事はまだまだ続きます。
とは言っても、レッカーで吊り上げた「棟木」を設置する工程はとても絵になるので、
記念として、写真に残しておきたいですね。
⑩屋根の野地板の施工
屋根の小屋組みが終わったら、屋根の仕上げ材であるガルバリウム鋼板などの下地になる野地板を設置する工程に移ります。
建て方工事当日の大工さんの作業はこれで終わりですが、
万が一の雨に備えて、ルーフィングと呼ばれる防水シートを屋根職人さんが野地板の上に敷くことで、建て方工事の工程全てが完了となります。
④~⑩の工程を1日で完了させるので、上棟日の段取りが狂うと、大工さん達が殺気立つことがあります。
「建て方の事前準備」や「材料の搬入」は現場監督が段取りを組むのですが、「上棟日のプレッシャーは半端じゃない。」と言う現場監督も少なくないですね。
雨による建て方(上棟)工事の影響は?ーまとめ
建物の工事が着工すると、雨が気になるお施主さんも少なくありません。
確かに、木造の建物の工事中に雨が降ると、材料が水浸しになる恐れもあるので心配されるのも当然ですし、
間取りなどの打合せをしていても、「工事中に雨が降ったら、木材に悪い影響は出ませんか?」といった質問をよく受けます。
結論から言うと、少々の雨なら木材が濡れても心配する必要はありません。
何故かと言うと、
木材が雨に打たれたとしても、表面は濡れてしまいますが中まで浸透するにはかなり時間がかかるので、木材が水没しない限りは中に浸透する前に乾いてしまいます。
ですが、雨により工事の安全が確保できないと判断すれば、上棟の日程を遅らせることもあります。
とは言っても、木材が常に水に濡れている状態になってしまうと、後に不具合が発生する可能性もあるので、好ましい状況ではありません。
なので、雨ざらしで構造材を長期間にわたって保管する場合には、の養生(保護)方法に細心の注意が必要となりますし、
床板に雨水が溜まっている状態を放っておく住宅会社は、お世辞にも現場の管理体制が良いとは言えません。
住宅会社の担当者の中には、
「構造用合板には『1類』や『特類』といった接着部分の耐久性による区分けがあり、特類は常時湿潤状態でも接着の耐久性は確保されているので大丈夫。」と言う人もいますが、
接着剤は水に強くても、木材が水に強くなる訳ではありませんし、
合板の内部まで濡れてしまうと乾燥までにかなりの時間がかかり、建物完成後に不具合が発生することも少なくないので、
住宅会社の現場監督には、しっかりとした現場管理をお願いしましょう。
このような、雨に対する危機管理などでも、住宅会社の工事に対する配慮が分かる為、
住宅会社を選ぶ際の参考にもなるので、覚えておいて下さいね。
■ 上棟日は、1日で1階の柱から屋根までの工程を完了させることが多い
■ 少々の雨なら、木材が濡れても心配はない
■ 常時湿潤状態では、特類の構造用合板でも劣化が進んでしまう