■ 快適な住環境のマイホームで暮らしたい人
■ 家づくりで失敗や後悔したくない人
こんにちは!建築士のしみゆうです。
マイホームを購入される方に理由をお尋ねすると、多くの方が「快適な住環境で暮らしたいから。」とおっしゃいます。
そして、マイホームの住環境をUPさせるために、様々な「情報収集」や「努力」を行い、「間取り」や「最新の設備機器」「断熱性能」などに拘って(こだわって)おられるのですが、
マイホームの快適性に直結しやすい「換気性能」を意識して拘っている方は、ほとんどいらっしゃいません。
しかし、快適な住環境を手に入れるためには、「室内の汚れた空気」と「外の新鮮な空気」の入れ替えをするための「換気計画」が、おそらく皆様が想像されている以上に大切なんです。
今回は、室内の快適性を保つために欠かせない、換気についてのお話です。
快適な住環境に換気が欠かせないのは何故?
室内で快適に暮らすためには、どんなことに気を付ける必要があると思いますか?
室内で快適に暮らすために必要なことですか・・
「過ごしやすい温度」と「圧迫感のない空間」と「使いやすい設備」と・・う~ん
まだまだありますよ。
例えば、「きれいな空気」も必要ですよね。
ホントだ!確かに室内の空気がよどんでいたら、とても快適とは言えませんね。
でも、なんだか空気って、勝手にきれいになってくれるイメージが強くないですか。
確かに、気密性が低く、隙間風の多い住宅に住んでいると、常に必要以上の空気が入れ替わっているので、換気の重要性を忘れがちですね。
しかし、快適な住環境を手に入れるためには、計画的な換気が欠かせないんです。
現在の住宅では、24時間換気が可能な換気設備の設置が義務付けられているのをご存知でしょうか?
1990年代に、住宅に使用している「建材」や「家具」などから発散される「ホルムアルデヒド」や「クロルピリホス」などの有害物質を起因とした、「シックハウス症候群」が社会問題となりました。
有害物質の過剰摂取が原因で、「倦怠感」や「頭痛」「めまい」「のどの痛み」「呼吸器疾患」など、様々な体調不良が引き起こされたと言われています。
その後、「シックハウス症候群」対策として、2003年の建築基準法の改定により、住宅に使われる建材などの材料に含まれる有害物質の含有量も規制されるようになり、
それに併せて住宅への24時間換気の設置が義務付けられたんです。
その結果、現在では「シックハウス症候群」による健康被害はかなり減ったのですが、室内の空気中に含まれる有害物質はそれだけではありません。
前回の記事 でも紹介しましたが、住宅のような密閉空間では、通常の生活を営んでいるだけでも、「一酸化炭素」や「二酸化炭素」などの人体に有害な様々な物質が蓄積され、空気汚染が進行してしまいます。
ご想像の通り、そのままではお世辞にも快適な住環境とは言えません。
このような室内の有害物質の蓄積を防ぎ、日々の生活を快適に過ごすためにも、「室内の汚れた空気」と「外部の清浄な空気」を入れ替えるために必要な、「計画的な換気」が欠かせないんです。
あまり今まで意識していませんでしたが、快適な住環境を手に入れるためには、私たちの想像以上に換気にも注意しないといけないんですね。
家族全員が健康に暮らせないんだったら、マイホームを手に入れる価値が薄れてしまうと思いますよ。
おっ、以前より換気に対する関心が深まったようですね。
では、より快適な住環境のマイホームを手に入れるためにも、一般的な住宅で用いられている換気方法の「種類」や「特徴」について学んでおきましょう。
換気方法の違いによる特徴
一口に「住宅の換気」といっても、主に「自然換気」と「機械換気」に分けられ、それぞれにも幾つかの分類があるので、
まずは、簡単に特徴を説明しますね。
自然換気の種類
自然換気には、建物の「内」と「外」で自然に発生する、「温度差」と「気圧差」を利用した、2種類の方法があります。
【温度差による換気】
空気の「温かくなると上昇する」特性を利用した換気方法です。
換気量は、建物の開口面積の大きさの他に、「給気口と排気口の高低差の平方根」や「建物内部と外部の温度差の平方根」に比例して大きくなります。
◇メリット
- 機械が必要ないので、コストがかからない
- 一度で多くの換気量を得ることができる
◆デメリット
- 換気に温度差が必要なため、部屋によって効果に差が生じる
- 温度差が少ないと、必用な換気量を確保できない
- 換気量の調節が難しいため、計画的な換気が困難
【気圧差による換気】
空気の「圧力が高い方から低い方へ流れる」特性を利用した換気方法です。
換気量は、建物の開口面積の大きさの他に、「建物内部と外部の圧力差の平方根」や「外部風力の2乗」に比例して大きくなります。
◇メリット
- 機械が必要ないので、コストがかからない
- 一度で多くの換気量を得ることができる
◆デメリット
- 風通しの悪い部屋には充分な換気が期待できない
- 風が弱いと必要な換気量が確保できない
- 換気量の調節が難しいため、計画的な換気が困難
なんだか「数学」か「物理」の講義を聞いてるようで、何が何だか・・
もっと簡単に教えてください。
簡単に言うと、どちらも換気する開口部が大きい程、換気量が増えるのですが、建物内外の「温度差」や「圧力差」も大きく影響するので、計画的に換気することが困難なんです。
ですが、「室内の空気を短時間で入れ替える」には向いている換気方法なんですよね。
機械換気の種類
人為的に換気扇などを取付けることで換気を行う方法を機械換気と呼ぶのですが、「給気口」や「排気口」の仕組みによって、3種類に分類されています。
【第1種換気設備】
「給気口」と「排気口」の両方に機械設備(送風機・換気扇等)を設けた換気方法です。
第1種換気設備の特徴は、室内の気圧を「負圧(室外に対してマイナスの圧力)」と「正圧(室外に対してプラスの圧力)」のどちらにも調整できるので、「高気密住宅」や「クリーンルーム」などで積極的に用いられています。
◇メリット
- 性能の高いフィルターを用いれば、外気に含まれる有害物質を除去できる
- 熱交換システムを組み込むことができる
- 室内の換気量の調節が容易
◆デメリット
- 導入時のイニシャルコストが高額になりやすい
- 日々に必要なランニングコストも高額になりやすい
- フィルターの交換など、メンテナンスを怠ると性能が劣化してしまう
【第2種換気設備】
「給気口」に機械設備を設け、「排気口」に開口を設けた換気方法です。
第2種換気設備の特徴は、室内の気圧を「正圧」に保てるため、建物の隙間から空気が内部に流入する心配がなく、「病院の手術室」などに用いられているのですが、一般的な住宅に導入されることはほとんどありません。
◇メリット
- 換気設備を取り付けた部屋の空気を清浄に保てる
- 「イニシャルコスト」や「ランニングコスト」を抑えられる
- 室内の換気量の調節が容易
◆デメリット
- 一度に大量の換気をするには、出力の大きな機械が必要
- 室内の空気を強制的に排出するため、外気温の影響を受けやすい
【第3種換気設備】
「給気口」に開口を設け、「排気口」に機械設備を設けた換気方法です。
第3種換気設備の特徴は、室内の気圧が「負圧」になるため、取り付けた近辺の汚染空気が流出する心配がなく、多くは「トイレ」や「キッチン」などに設置されています。
一般的な住宅では、最も採用されている換気設備です。
◇メリット
- ニオイの発生しやすい場所に取り付ければ、ニオイの発散を防いでくれる
- 「イニシャルコスト」や「ランニングコスト」を抑えられる
- 室内の換気量の調節が容易
◆デメリット
- 一度に大量の換気をするには、出力の大きな機械が必要
- 室内の空気を強制的に排出するため、外気温の影響を受けやすい。
換気扇なんかの機械を使った換気方法だけでも、たくさんの種類があるんですね。
最も効率のいい換気方法はどれですか?
それぞれの換気方法によって適した場所がありますし、コストも大きく違うので、一概にどれがいいとは言いにくいのですが、
より快適な住環境を求めるなら、「第1種換気設備」と「熱交換システム」の併用がおススメです。
ただし、「イニシャルコスト(導入費用)」や「ランニングコスト(運用費用)」が高額になってしまうので、デメリットも忘れてはいけません。
それに、コストが安価な「第3種換気設備」であっても、建物の気密性能をUPすれば、計画的な換気が可能なので、快適な住環境を得ることも可能ですよ。
排出される空気の熱エネルギーを流入する空気の熱エネルギーと交換する仕組みのこと
夏期には室内から排出される冷たい空気を利用して、室内に取り入れる外気を冷やし、冬期には室内から排出される温かい空気を利用して、室内に取り入れる外気を温めることができる
快適な住環境を目指すなら「換気」と「気密」の両立を―まとめ
室内の空気は勝手に入れ替わるイメージが強かったので、マイホームの換気設備のことなんて、すっかり頭から離れていましたが、
快適な住環境を手に入れるためには、計画的な換気が必要不可欠なんですね。
少しは分かってもらえたようですね。
しかし、計画した通りに換気を行うには、換気設備以外に建物の気密性にも注意しておきたいところです。
なぜかと言うと、上の図を見てもらうと分かるように、同じ換気設備を用いても、建物の気密性能が変われば、結果も大きく変わるんです。
つまり、左側の図のように「気密性能が高い(C値が小さい)住宅」なら、建物内外の「温度差」や「圧力差」が大きくても、建物の隙間から空気が流入しないため、外気温の影響を受けにくく、
空気の流れを隙間風に邪魔されないので、全ての部屋を計画通りに換気することができます。
しかし、右側の図のように「気密性能が低い(C値が大きい)住宅」の場合は、建物内外の「温度差」や「圧力差」が大きければ大きいほど、建物の隙間からたくさんの空気が入ってしまうので、外気温の影響を強く受けてしまいます。
加えて、事前に計画していた空気の流れも隙間風に邪魔されてしまうため、部屋によっては汚れた空気がそのまま残ってしまいます。
建物の延べ床面積に対する「隙間の面積」の割合を表す値で、延べ床面積1㎡中に何㎠の隙間があるかを知ることができる
C値が0ならば隙間が全くないことになり、数値が大きくなるほど気密性が低く、温熱環境が悪いことを示す
なるほど!
住宅の換気には、建物の気密性能も大きく関係するんですね。
それに、自分の気になる「仕様」や「性能」ばかりに固執していては、本来の能力が発揮できないことがあることも覚えておきます。
そうなんです!
「換気性能」と「気密性能」のように、それぞれの関係にも配慮しておけば、相乗効果を期待できる可能性が高く、より快適な住環境のマイホームを手に入れる近道になるんです。
例えば、建物の気密性能をUPすることで、計画通りの換気が行われるだけでなく、断熱材も本来の性能を発揮してくれるようになりますよ。
じゃあ、しっかりした換気計画に気密性能UPを加えれば、「快適な住環境」だけでなく、「温熱環境のいい家」にすることもできるんですね。
家づくりの中でも注目度が低く、つい忘れてしまいがちな換気計画ですが、快適な住環境を手に入れるためには見逃せない住宅設備の一つです。
マイホームが完成してから「失敗」や「後悔」を感じないために、忘れずに取り組んでくださいね。
■ 換気方法は、用途に合わせて選ぶことが大切
■ 快適な住環境を手に入れるには、計画的な換気の運用が欠かせない
■ 計画的に室内を換気するには、気密性能の向上が必須