■ 土地の所有権と借地権の違いを知りたい人
■ 家づくりで失敗や後悔したくない人
こんにちは!建築士のしみゆうです。
私は仕事柄、マイホームの購入を検討されている方々と話す機会が多く、
よく、「我が家の予算では注文住宅は難しいでしょうか?」「立地条件の良い土地を選ぶと建物に回す予算がなくて・・」といった相談を受けます。
もちろん、一生に一度とも言えるマイホームの購入なのですから、「自分達家族の要望を最大限に盛り込みたい!」という思いが強いのも当然です。
しかし、有り余る予算がある方は一握りで、ほとんどの方は限られた予算の中で「何を叶え、何を諦めるか」を思案しないといけないのが現実なのではないでしょうか。
そして、考えに考えた末・・少し郊外の土地を購入したり、泣く泣く建物のグレードダウンに取り組んだり・・というのは、よくある話です。
ですが、少し視野を広げて土地探しをすれば、予算を変えずとも理想のマイホームを手に入れられるかもしれません。
と言うのも、マイホームを建てる土地の取得方法には、「借地権」という権利があり、土地の所有にこだわらなければ、より低い予算でマイホームを建てる場所を手に入れることも可能なんです。
今回は、借地権のメリット・デメリットに触れながら、借地権を「取得するために必要な費用」や「種別による特徴の違い」についてまとめてみました。
所有権と借地権の違いって何?
「所有権を持っていない土地でもマイホームが建てられる」とは知りませんでした。
ところで、「借地権」って、普通に土地を購入するのと何が違うんですか?
「借地権」を簡単に説明すると、土地の所有者から「所有権(物を使用・収益・処分できる権利)」の一部である、「使用・収益できる権利」を借りることです。
まず建物を建てるには、土地の所有者の許可が必要なので、多くの人は所有権を得るために土地を購入しますよね。
はい。マイホームを建てるには土地がないと始まらないので、僕も土地探しの真っ最中です。
でも、なかなか予算内で希望の土地が見つからず、思うように家づくりが進まないんですよね~
先ほども触れましたが、その土地の所有者の許可さえあれば建物は建てられるので、必ずしも自分が土地の所有権を持っている必要はありません。
なので、土地の所有権に限らず、借地権を取得すれば、その土地にマイホームを建てることができるんです。
それに、借地権は所有権に比べて割安なので、「自分の土地を持つ」ということにこだわらなければ、資金不足を解消する方法の一つになりますよ。
割安なのは魅力的だけど・・土地を借りるだけだったら将来的な資産になりませんよね・・
それに、もし土地の所有者に突然「出て行け」なんて言われたら、困っちゃいますよ。
たしかに、将来的な資産にはならないかもしれませんが、突然追い出される心配はありません。
それに、一口に借地権といっても幾つかの分類に分けられており、その条件も様々です。
条件さえ合えば、かなり割安で権利を得られることもあるので、諦めていた要望が叶えられるかもしれませんよ。
「諦めていた要望が叶う」って、魅力的だな~
たしかに、所有権と並行して土地探しをすれば、自分達が希望している土地が見つかる可能性がUPしそうですね。
借地権を知っておけば、今後の土地探しに役立つかもしれません。
お、やる気がでてきましたね。
では、まず最初に借地権の種類から説明しましょう。
借地権の種類
◇旧法借地権
1992年8月の「借地借家法」が施行される前に設定されていた借地権のことで、「借主の権利が非常に強い」というのが大きな特徴です。
- 契約期間を満了しても、貸主に正当な事由がない限り更新の拒絶ができない
(基本的に、更新することで半永久的に土地を借り続けられる) - 建物の建て替え時に契約期間が自動で延長され、貸主の遅延のない異議がない限り契約解除ができない
- 契約期間満了時は貸主に建物の買い取りが義務づけられる
◇普通借地権
1992年8月より施行された「借地借家法」による借地権で、旧法借地権に比べ「貸主の権利が強い」という特徴があります。
- 契約期間満了後、貸主は「正当な事由」や「立ち退き料の支払い」により更新の拒絶ができる
- 建物の建て替え時は貸主の解約申し入れにより契約を解除することができる
(初回更新前に限り契約期間残存分の権利は有効) - 建物の建て替え時は契約期間が20年延長される
◇定期借地権
「借地借家法」の施行に伴い新設された借地権で、「貸主は契約期間が満了すれば自由に土地が利用できる」というのが大きな特徴です。
- 契約期間を更新することができない
- 建物を建て替えても時契約期間の延長がない
- 契約期間満了時は貸主に建物の買い取り義務がない
さらに、定期借地権は、「一般定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」「事業用定期借地権」に分類され、「契約存続期間」や「使用目的の用途」「契約満了後の建物の扱い」などの条件が異なります。
なお、それぞれの主な特徴は、下記のものです。
〇一般定期借地権
- 借地権の存続期間を50年以上に設定
- 土地に建てる建物の用途に制限がない
- 契約期間満了時に借主は建物を解体し更地で返還
〇建物譲渡特約付借地権
- 借地権の存続期間を30年以上に設定
- 土地に建てる建物の用途に制限がない
- 契約期間満了時に貸主が建物を買い取る
〇事業用定期借地権
- 借地権の存続期間は10年以上50年未満に設定
- 土地に住宅を建てることはできず用途は事業用に限られる
- 契約期間満了時に借主は建物を解体し更地で返還
「借地契約の残存期間」や「契約満了後の建物の扱い」なんかの条件が随分と違いますね。
もし借地権を利用するなら、少しでも借主に有利な契約がいいなぁ~
で、肝心の借地権を得るために必要な費用は、どのくらいになるんですか?
たしかに、借りる立場としては有利に越したことはありませんが、「借主の権利が強い借地権」ほど、取得費用が高額になる傾向があります。
それと、借地権では権利を取得する際の初期費用以外にも、「地代」などの定期的に必要となる費用が発生するのも忘れてはいけません。
あ・・そっか!購入するわけじゃないから、初期費用だけじゃダメなんですね。
借地権の土地にマイホームを建てるなら、どんな費用を見込んでおかないといけないのか教えてください。
では、借地権を利用する際に必要となる費用について説明しましょう。
初期費用だけでなく、定期的に必要となる費用を含んだ総合計で比較することも大切ですよ。
土地の借地権の得るために必要な費用
◇取得費用
「旧法借地権」は借主の権利が強いため、土地の所有権相場の7~8割で取り引きされることが多かったのですが、
「借地借家法」の施行に伴い、借主の権利が弱くなった「普通借地権」や「一般定期借地権」では取引価格の低下が見られます。
一般的に、借主の権利が強いほど取引価格が上昇する傾向があります。
◇地代
借地権では、土地の家賃ともいえる地代を定期的(月払い・年払い等)に支払うことになります。
※支払い間隔は当初の契約による
一般的な地代の相場は、その土地の固定資産税の3~5倍と言われています。
◇保証金・権利金
借地権の契約条件に、「保証金(契約満了時に返還される費用)」や「権利金(契約満了時に返還されない費用)」が設定されていることがあります。
特に決まったルールがあるわけではなく、全く性質が異なる費用になるため、注意が必要です。
◇更新料・建て替え承諾料など
「旧法借地権」や「普通借地権」では、契約更新時の更新料が設定されていることが多く、土地所有権の4~6%が相場と言われています。
他にも、「建て替え承諾料(建物の建て替え時に必要)」や「譲渡承諾料(第三者への賃借時に必要)」などが設定されていることがありますが、特に決まったルールがあるわけではないので、契約前の確認は必須事項です。
いろんな費用を見込んでおかないといけないんですね。
う~ん・・でも、僕達家族に向いているかどうか判断が難しいなぁ。
ここまでは、借地権がどんなものかという説明でしたが、次は少し目先を少し変えてみましょう。
メリットとデメリットを比較すれば、自分や家族が借地権に向いているかどうかを知る近道になるかもしれませんよ。
借地権が向いているのはどんな人?
たしかに、ただ費用の安さだけにつられてしまっては、後で後悔するかもしれませんね。
一生に一度の家づくりかもしれないんだから、慎重に進めないと・・
借地権のメリット・デメリット
◇メリット
所有権に比べて割安で取得でるため初期費用を抑えやすい
借主に固定資産税や都市計画税の支払い義務がない
土地の所有権は貸主にあるため土地取得税や登記費用が必要ない
周辺環境などの立地条件に恵まれた土地が多い
◆デメリット
借地のため自身の資産とならない
地代や更新料などの定期的な支払いが発生する
担保価値が低いため金融機関からの借り入れが難しいことが多い
契約期間満了後に更新できない場合は事前の準備が必要
所有権と異なり借地権は第三者への売却が難しい
自分の資産にならないのはちょっと・・
でも、住んでしまえば借地権か所有権かなんて分からないんだし・・土地の費用が抑えられれば、今よりも条件のいい土地も視野に入れられるしなぁ~
これは・・悩みますね。
たしかに、所有権にこだわる方が多いのですが、「借地権だからこそ手に入れられる土地」もあるんです。
と言うのも、金銭的に余裕がある地主さんは立地条件のいい土地を手放したくないので、土地の売却ではなく、賃借を好まれる方が多いんです。
なので、駅近などの条件の整った土地に限って借地権、なんてことも珍しくありません。
そっか!あまり所有権にこだわっていたら、立地条件のいい土地を見逃してしまう危険性も高いということですね。
売っていないものは買いようがないんだから、立地条件が最優先なら借地権も視野に入れておかないと、いつまで経っても家づくりが進められませんよね。
ですが、借地権は資産価値が認められ難く、担保としての価値を低く評価されやすいので、金融機関からの借り入れが困難という特徴があります。
なので、住宅ローンの利用を予定しているなら、担保価値を高く評価してくれる金融機関探しが必須となるので、注意してくださいね。
あちらを立てれば、こちらが立たず・・
家づくりって、バランスが大切なんですね~
借地権は権利要件とトータルコストの把握が大切ーまとめ
そうそう、バランスといえば、借地権では「権利要件(土地を借りる条件)」の内容確認はもちろんですが、「トータルコストのバランス」が非常に大切です。
と言うのも、土地の借地権を利用した家づくりでは、所有権にはない地代や更新料などの費用が必要となるからなんですよね。
資金計画の際に、きちんと先々のライフプランにも組み込んで配慮しておかないと、節約節約で日々の生活が楽しめなくなってしまうかもしれませんよ。
地代を見落とすことはないでしょうけど、更新料に備えておかないといけませんね。
でも、取得費用や地代・更新料なんかを合計すると、結構な金額になってしまいませんか?
いいところに気付きましたね。
借地権では初期に必要な取得費用だけでなく、地代や更新料などの契約満了までに必要な全ての費用を把握しておくことが大切なんです。
そうしないと、「所有権と支払い総額が大きく変わらいのに資産にならない」なんてことになりかねませんよ。
そんなこともあるんですか!
家づくりって、トータルコストの把握が大切なんですね。
とくに気を付けたいのが、契約条件に「保証金」や「権利金」が含まれている時です。
保証金は契約が満了すれば返金されますが、権利金だとお金が返ってくることはありません。
借地権の取引では、一般的な賃貸と違って家賃の数ヶ月分なんて金額じゃないので、絶対に確認を怠らないでくださいね。
おかげで借地権がどんなものか分かりました。
気になるデメリットもありますが、選択肢の一つとして土地探しで活用してみます。
土地探しでは、「割安な土地だと思って飛び付いたら借地権だった・・」なんて笑い話にもならない失敗談もあるくらいです。
家づくりでは初めての経験が多く、知識がないばっかりに大失敗をする人が後を絶ちません。
しっかりとした情報収集を心掛け、納得できるまで確認を怠らない慎重さが、家づくりを失敗しないコツですよ。
■ 借主の権利が強い借地権ほど取引価格が高額になる傾向がある
■ 人気の土地は希少なため、借地権だからこそ手に入る立地条件の土地も存在する
■ 借地権取得の際は権利要件だけでなく、トータルコストの確認が重要