■ 注文住宅の防火・耐火性能に興味がある人
■ 省令準耐火構造のメリット・デメリットを知りたい人
こんにちは!建築士のしみゆうです。
突然ですが、「省令準耐火」という建物の仕様をご存知ですか?
省令準耐火とは、木造建築物の防火・耐火性能に関わる構造の一つなのですが、
この構造をマイホームに採用できれば、火災時の安全性が増すだけでなく、ランニングコストの大幅削減に繋がります。
とは言っても、省令準耐火構造の恩恵を最大限に活かすには、ちょっとした知識と秘訣が必要です。
今回は、マイホームを省令準耐火構造にすることで得られる、「メリット・デメリット」「ランニングコスト削減の秘訣・注意点」を中心に、注文住宅の防火・耐火性能について解説します。
省令準耐火構造がランニングコスト削減に繋がる理由
火事に対する安心感が増すだけでなく、ランニングコストも安くなる・・そんな上手い話が本当にあるんですか?
その代わり、導入費用がバカ高いんですよね。
そんなことありませんよ。
住宅会社の標準仕様に左右されますが、僅かな追加費用だけで省令準耐火構造に変更できた事例だってあるくらいです。
エ~ッ!そんな方法、住宅会社では教えてくれませんでしたよ。
って言うか、建物の防火や耐火に関する説明すらなかったような・・
「火災に対する性能アップがランニングコスト削減に結び付く」って言われても、ピンとこないかもしれませんね。
まずは、ランニングコストが削減できる仕組みからお話しましょう。
木造住宅は省令準耐火構造にすれば、火災保険料が安くなる!
省令準耐火構造の採用により、削減できるランニングコストとは・・
ズバリ!火災保険料です!
火災保険の負担額は、「火災に対する建物の性能」が大きく影響します。
簡単に言うと、「火事に強い建物は火災保険料が安く、火事に弱い建物は火災保険料が高い」ということです。
そして、火事に強いか弱いかは、建物の構造により判断されるのですが、
戸建て住宅の場合は、下記のどちらに分類されるかにより火災保険料の計算基準が変わります。
- T構造・・耐火・準耐火建築物(鉄骨造・鉄筋コンクリート造 等)
- H構造・・T構造以外の建築物(木造 等)
そして、T構造の建物(耐火・準耐火建築物)は、同じ保証額のH構造の建物に比べて、火災保険の負担額が50~60%軽減されるんです。
例えば、
H構造の建物(新築価格2,000万円+家財保証1,000万円)であれば、1年間の火災保険料の相場は6~8万円ですが、
同じ条件のT構造の建物なら、「年間火災保険料 2.5万円~4万円」と負担額が大きく減少します。
エッ!火災保険って、建物の構造によって保険料が違うんですか?
知りませんでした!
耐火・準耐火建築物にすることで、ランニングコストの削減が計れるのは火災保険だけではありませんが、
これだけでも、年間で約3・4万円の節約に繋がりますね。
でも、耐火建築物や準耐火建築物って、高額ですよね・・
ランニングコストが安くなっても、建物の総予算が高くなったら意味がありませんよ~
心配しないでください。ここで登場するのが省令準耐火構造です!
耐火・準耐火建築物にしなくても、省令準耐火構造にすることで、お得なT構造の料率で火災保険に加入できますよ。
火災保険料が安くなれば、地震保険料も安くなる!
実は、T構造(耐火・準耐火建築物)の建物は、地震保険料も安いんです。
と言うのは、地震保険は火災保険が計算基準になっており、火災保険料が安くなれば、おのずと地震保険料も安くなります。
例えば、先程の火災保険と同じ条件で地震保険を計算すると、
H構造の建物(地震保証を火災保険の50%に設定)なら、1年間の地震保険料の相場は3.5~5万円ですが、
同じ条件のT構造の建物なら、「年間地震保険料 1.5~2.5万円」とこちらの負担額も大きく減少します。
エ~ッ!火災保険料が安くなると、地震保険料も安くなるんですね!
最近は地震保険に加入する方が増えているので、これは嬉しいですよね。
更に、地震保険料の割引が受けられる建物であれば、もっとランニングコスト削減ができますよ。
更に地震保険料は耐震等級アップで安くなる!
地震保険には、建物の耐震強度による割引制度があるんです。
先ほどの地震保険料の計算では、建物の免振・耐震性能による割引を考慮していませんでしたが、
「耐震等級2の建物なら約30%」「耐震等級3の建物なら約50%」の割引が追加で受けられます。
例えば、省令準耐火構造で耐震等級3の建物(新築価格2,000万円+家財保証1,000万円 地震保証を火災保険の50%に設定)なら、1年間の地震保険料が半額の0.75~1.25万円になるので、
1年間の火災保険料と地震保険料の合計を3.25~5.25万円に抑えることができます。
これは、H構造(非耐火)で耐震等級1(建築基準法の基準)の建物(1年間の火災保険料と地震保険料の合計 約9.5~13万円)と比べると、
マイホームに省令準耐火構造と耐震等級3を採用することで、1年間で6.25~7.75万円ものランニングコスト削減が可能になることを表しています。
※年間払いで計算
1年間のランニングコストが6万円減少するなら、50年間で300万円!
建物の価値は年々下がるので、単純に×50年はどうかと思いますが、かなり保険料の負担が減らせるのは間違いありません。
補償内容が同じであれば、掛け捨ての保険料は安い方がイイですよね。
こんなにランニングコストが抑えられるなんて・・
がぜん、省令準耐火構造に興味が湧いてきました。
では、省令準耐火構造について詳しく解説しましょう。
省令準耐火構造とは
省令準耐火構造とは、住宅金融支援機構が定める基準に適合する住宅のことで、下記のいずれかの条件を満たさなければなりません。
- 住宅金融支援機構の定める仕様を満たす、2×4(枠組壁工法)又は木造軸組工法
- 住宅金融支援機構の承認を受けた木質系プレハブ住宅(積水ハウス・大和ハウス 等)
- 住宅金融支援機構の認める工法を採用した木造住宅(一条工務店・パナソニックホームズ 等)
省令準耐火構造の主な特徴には下記のようなものがあり、建物の部位毎に一定の基準が設けられています。
- 外部からの延焼防止・・隣家などから火をもらいにくくするため
・外壁・軒裏を建築基準法で定める防火構造(30分耐火)を用いる
・屋根に不燃材を使用、もしくは準耐火構造であること - 各室防火・・火災が発生しても一定時間部屋から火を出さないため
・室内に面する天井及び壁に指定の性能(15分耐火)を有すること - 他室への延焼防止・・万が一部屋から火が出ても延焼を遅らせるため
・壁・天井内部にファイヤーストップ材の設置
なんだか、ややこしそうですね・・覚えられるかな・・
詳細な仕様を覚える必要はありませんよ。
抑えておくべきなのは、候補の住宅会社の建物が「省令準耐火構造にできるのか?」「イニシャルコスト(初期費用)の増加額は?」「叶えたい仕様変更が可能なのか?」ということです。
省令準耐火構造なら初期費用が抑えやすい理由
建物の性能向上には費用増加がつきものです。
もちろん、防火・耐火性能も例外でなく、非耐火建築物を耐火・準耐火建築物にグレードアップするには、建築費用が300万円以上アップすることも珍しくありません。
それでは、火災・地震保険料減額によるランニングコスト削減効果が得られたところで、大幅な建築費用の負担増加により、家づくりの予算が圧迫されることになります。
ですが、耐火・準耐火構造に比べて求められる要件の厳しくない、省令準耐火構造なら建築費用の増加を抑えることが可能です。
更に、建築費用の増額度合いは、「建物に最低限必要とされる防火・耐火性能の基準差」「延焼のおそれのある部分の開口部(玄関扉・外部サッシ)への防火認定品の設置」に大きく影響されるので、
マイホームを建てる敷地の防火規制を知っていれば、事前にある程度予測することができます。
省令準耐火構として認められる条件
火災・地震保険では、保険料の安いT構造を申し込む際、証明できる書類の提出が義務付けられています。
省令準耐火構造の場合は、下記のような書類が必要です。
- 住宅会社の発行する省令準耐火証明書
※火災保険会社の指定する書式にて提出 - 省令準耐火構造で申請を行ったフラット35適合証明書
- 「省令準耐火・省令簡耐」と記載のある設計仕様書・設計図面 など
建物の仕様が省令準耐火構造でも、証明する書類が提出できなければ、火災・地震保険料は安くなりません。
火災保険の契約を行うのは建物引渡し間近なので、取り返しがつかなくならないように、前もって住宅会社の担当者に確認しておきましょう。
省令準耐火構造のメリット・デメリット
メリットばかりに思える省令準耐火構造ですが、デメリットがないわけではありません。
家づくりをスムーズに進めるためにも、家族の価値観と照らし合わせ、優先順位を考えておきましょう。
□メリット
- 火災・地震保険料の削減ができる
- 防火・耐火性能の向上により火災時の安全性が高まる
■デメリット
- 仕様変更による建築費用の増額
- 仕様を満たせない建材は使えない
- デザインの自由度が下がる
以前まで、省令準耐火構造にするなら、内装材(柱・梁)の表し仕上げは採用できませんでした。
しかし現在では、一般社団法人 日本木造住宅産業協会の特記仕様書を用いれば、柱・梁が見えるデザインでも建築可能です。
ただし、住宅会社が木住協会員でなければならないので、気になる方はHPの登録会社検索で確認してくださいね。
省令準耐火構造によるランニングコスト削減の注意点
住宅金融支援機構の定める省令準耐火構造を採用すれば、火災時の安心が得られるだけでなく、火災・地震保険料の削減効果を受けることができます。
しかし、保険料を安くするために必要な建築費用が、ランニングコスト削減による節約を超えてしまっては効果半減です。
それを防ぐには、建物を省令準耐火構造にするために必要となる費用に注目しなければなりません。
- 省令準耐火構造にするために、どのような仕様の変更が必要で、建築費用がどのくらい増加するのか?
※木造軸組工法に比べ、2×4(枠組壁工法)の方が建築費用の増加が少ない 等 - マイホームを建てる敷地の防火規制による制限はどうなっているのか?
※防火規制をクリアするために大幅な建築費用増加があってはランニングコスト削減効果が半減する - T構造で火災・地震保険を契約するために必要な証明書が用意できるか?
※防火規制の厳しい区域の建築であっても、耐火・準耐火建築物とは限らない
省令準耐火構造によるコストダウンの恩恵を最大限に活かすには、法令で定められる防火規定の概要を知っておくと有利です。
次は、防火規制について簡単に説明しますね。
省令準耐火構造の恩恵を最大限に活かすには防火規制の知識が重要
日本では、火災による被害の拡大を防ぐため、その区域で建築する建物の防火・耐火性能に様々な基準を定めています。
これを防火規制と呼び、都市部のような建物の密集する地域ほど基準が厳しく、高い防火・耐火性能が必要です。
建物の防火・耐火性能を高めるための建築費用増加を避けることは非常に困難ですが、
少し知識があれば、「土地探し」や「建物のプランニング」に活用することで、コストの増加を最小限に抑えることができます。
もちろん、省令準耐火構造によるランニングコスト削減も例外でなく、事前の情報収集が結果に大きく影響するので、
この機会に、防火規制の概要を知っておいてください。
防火構造とは
防火構造とは、外部からの延焼防止を主な目的とし、主に建物の屋根や外壁・軒裏などに必要とされる、防火性能を有する構造のことです。
周囲で発生した火災による、建物への延焼を抑制する役目を担っており、加熱による構造耐力上支障のある変形や損傷等に高い耐性をもつ素材が用いられています。
要するに、マイホームの防火性能を高めれば、
「周囲からのもらい火が建物に燃え移りにくくなる」ってことですね。
耐火構造とは
耐火構造とは、主に外部への延焼防止を目的とし、「建物内に不燃性の高い素材を用い火を燃え移りにくくする」「各部屋を区画することにより火災の広がるスピードを抑制する」といった、耐火性能を有する構造のことです。
建物内部で発生した火災による、「外部への延焼の抑制」や「建物の倒壊・破損を抑える」「建物内部からの避難時間の延長」といった役目を担っており、
加熱による構造体力上支障のある変形や損傷等に高い耐性をもつ素材が用いられ、火が燃え移る時間を延ばすための工夫がされています。
なるほど。マイホームの耐火性能を高めておけば、
万が一火事を起こしてしまっても、ご近所への延焼を防げるだけでなく、家族が避難する時間にも余裕ができるんですね。
都市計画法により建物の防火・耐火性能の最低基準が定められている
万が一の火事で、「家族の安全」や「その後の生活」を守れるように、マイホームの防火・耐火性能にも気を配っておかないとダメですね。
でも、性能をアップさせる予算がありません!
最近の住宅なら、ある程度の性能は期待できますよね・・
もちろん建物の防火・耐火性能は、火災による影響を考慮し、区域毎に都市計画法という法律により定められています。
ですが、防火・耐火性能アップに魅力を感じる人が少ないので、ほとんどの住宅会社では「法で定められた最低基準を満たす性能しか採用していない」のが現状です。
防火地域で必要とされる性能
- 2階建以下 50㎡超100㎡以下の建物・・耐火または準耐火建築物
- 2階建以下 100㎡超の建物・・耐火建築物
- 3階建以上(地階を含む階数)・・耐火建築物
準防火地域で必要とされる性能
- 2階建以下(地上階数)500㎡以下の建物・・制限なし。ただし、木造建築物等は外壁・軒裏で延焼のおそれのある部分に防火構造が必要
- 3階建(地上階数)500㎡以下の建物・・耐火・準耐火建築物または令136条の2に規定される木造3階建の技術的基準に適合する建築物
- 4階建・・耐火建築物
法22条地域で必要とされる性能
構造は問わない。
ただし、屋根を耐火・準耐火構造もしくは不燃材で葺くこと。
延焼のおそれのある外壁については、規定の技術的基準に適合させなければならない。
何だかややこしいですね・・
こんなことも知っておかないといけないんですか?
建築基準法など、法令に関することは順守しないと建築確認申請が下りないので、基本的に住宅会社の担当者が対応してくれます。
ここで知っておいて欲しいのは、「マイホームを建てる敷地の区域によって建物に必要な防火・耐火性能の最低基準が異なる」ということです。
防火・耐火性能のアップは建物コストに大きく影響するので、建築予算をオーバーしないためにも大切ですよ。
ランニングコスト削減で、家づくり予算アップ!ーまとめ
注文住宅には、「建物の性能にこだわれる」という魅力があります。
高い価値を感じる性能を向上させることはもちろん、優先順位の低い性能を抑えてコストダウンを計ることも可能です。
とは言っても、一般的には建物の性能を向上させると建築費用が増加してしまいます。
ですが、省令準耐火構造を上手く活用すれば、
防火・耐火性能を向上させたうえに、ランニングコスト削減の効果を手に入れることが可能です。
事前に予測できれば建築予算が増やせる!
マイホームのランニングコストが予測できれば、新たな生活で必要となる固定費を事前に計算することができます。
仮に、年間の火災・地震保険料が6万円削減できれば、月々の住宅ローン返済を5,000円増加しても、家計への負担は変わりません。
これを借入金額に換算すると、住宅ローンの総額を約163万円増やしても、住居費用全体の負担額が変わらないことになります。
※35年 固定金利1.5% 元利均等払で計算
と言うことは、省令準耐火構造への変更費用が163万円以内なら、残った費用で他の要望を叶えることが可能です。
防火・耐火性能を向上させたうえで、家づくりの資金計画に余裕が生まれるのですから、マイホームに省令準耐火構造の採用を検討する価値は十分あるのではないでしょうか。
省令準耐火構造に積極的な住宅会社は少ない・・
「耐震性の高い建物は、大きな地震が来ても安心ですよ。」
「断熱性の高い家なら、夏涼しく、冬あったかで快適に暮らせます!」
「省エネ性能の高いお家は光熱費が抑えられるので、おサイフに優しいんです。」
これらのセールストークは、住宅営業マンが自社の建物を魅力的に感じさせようと、よく使うフレーズです。
ですが、省令準耐火構造の優位性をアピールする住宅会社はほとんどありません。
これには、下記のような理由があります。
- 防火・耐火性能向上に魅力を感じる人が少ない
- 火災・地震保険について詳しい住宅営業マンが少ない
- 省令準耐火構造の建物を建てたことがない
- 新たな技術を取り入れる努力をしていない
そのため、だまって住宅営業マンの話を聞いていては、省令準耐火構造による恩恵が受けられないかもしれません。
マイホームの「防火・耐火性能の向上」や「火災・地震保険によるランニングコスト削減」を目指すなら、積極的な質問を心掛けてください。
※火災・地震保険の条件や割引率等は保険会社により異なるのでご注意ください。
「省令準耐火構造」や「防火・耐火性能」に対する返答は、住宅会社や営業マンの実力を見抜く目安にも活用できます。
答えが曖昧だったり、誤魔化すようであれば、少し注意したほうがイイかもしれませんよ。
理想のマイホームの実現には、情報収集・比較が非常に重要。
注文住宅の情報収集法についても紹介しています^^
■ 省令準耐火構造による恩恵を最大限に活かすには、防火規定の概要を知っておくと有利
■ 事前にランニングコスト削減が予測できれば、家づくりの予算を増やせる
■ 省令準耐火構造への精通度は、住宅会社や営業マンの実力を見抜く目安に活用できる