■ 耐震等級をアップするメリット・デメリットを知らない人
こんにちは!建築士のしみゆうです。
阪神大震災以降、予見できない大地震に備え、マイホームの耐震性能に注目される方が増えています。
愛する家族の安全のため、財産を守るため、「地震に強い家が欲しい!」と考えるのは至極当然ですよね。
(この記事を書いている、2018/6/18 AM 私の住む大阪府箕面市で震度6弱の大きな地震がありました。
23年前の阪神大震災(震度6弱)ほどではありませんでしたが、これだけ大きな地震が各地で発生しているのですから、建物の耐震性にも注目しておくべきですね。)
ですが、建物の耐震性能に関する正しい知識を持っていないと、「地震に強い家のハズが、実際は違っていた・・」なんてことになりかねないんです。
というのも、根拠を持たない曖昧な「耐震等級〇相当」といった説明で、高い耐震性能が証明された建物と同等の能力を持つかのようにセールストークを行う住宅営業マンが少なくありません。
それに、耐震性能の高い住宅を得意とする住宅会社であっても、建物の「構造」や「間取り」「形状」によっては、耐震性能を向上させられないことだってあり得ます。
では、何を基準にし、どのように家づくりを進めれば、「真実の地震に強い家」が手に入るのでしょうか?
今回は、住宅の耐震性能を示す指標の一つである、「耐震等級」について解説しながら、「耐震等級をアップするメリット・デメリット」「耐震等級〇相当の注意点」についてまとめました。
建物の耐震性を示す指標、耐震等級とは
注文住宅のカタログなんか見ると、「耐震等級」って言葉をよく目にしますよね。
建物の耐震性能を表すってことは分かるんですけど、基準が何か分からなくて・・どのように選べばイイんですか?
「耐震等級」とは、住宅性能表示制度の導入に伴い用いられるようになった、建物の耐震性を示す指標です。
1~3の数値で表され、数字が大きくなるほど耐震性能が高いことを表しています。
なるほど!「耐震等級1より、耐震等級3の方が地震に強い家」ってことなんですね。
じゃあ、耐震性能が最も低い耐震等級1だと、どのくらいの地震がきても大丈夫なんですか?
たしかに、「ご自身のマイホームがどの程度の地震に耐えられるか」気になりますよね。
では、「耐震等級の基準」について説明しましょう。
耐震等級1の耐震性ってどのくらい?
「耐震等級」とは、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づく、「住宅性能表示制度」で定められた、地震に対する建物の構造躯体の損傷・倒壊・崩壊等のし難さを表した指標です。
この住宅性能表示制度では、現在の建築基準法で定める耐震性をクリアした建物を「耐震等級1」と表しています。
では、建築基準法で定める耐震性とは、どの程度なのでしょうか?
1981年の建築基準法の改正に伴い、国民の生命や財産を守るために「新耐震基準」が施行されました。
その際、「建物の耐震性の最低基準」として、下記のような耐震性能が義務付けられました。
- 稀(数十年に一度程度)に発生する震度5強程度の地震(地表の加速度で100㎝/s2程度)に対して構造躯体にほとんど損傷を生じるおそれがない
- 極めて稀に(数百年に一度程度)に発生する震度6強から7程度の地震(地表の加速度で400㎝/s2程度)に対して構造躯体が倒壊・崩壊するおそれがない
日本国内で新築する建物には、建築基準法の遵守が義務付けられているため、
少なくとも、1981年以降に新築された建物については、住宅性能表示制度で定める「耐震等級1以上の耐震性能を備えている」といえます。
なんだ、耐震等級1あれば、震度7(阪神淡路大震災・東日本大震災等)の大地震がきても大丈夫なんですね。
それを聞いて安心しました!
家作くん、もしかして勘違いしていませんか・・
あくまでも耐震等級1は、「震度6強から7程度の地震で建物の構造躯体が倒壊・崩壊する恐れがない」程度なので、地震の後にそのまま住み続けられるかどうかは別問題ですよ!
怖がらせるわけではありませんが、「大地震の際に避難する猶予がある」と考えておいてくださいね。
エッ~!てっきり、今の住宅は進化してるから、耐震等級は1でも問題ないのかと思っていました。
じゃあ、家族の安全だけでなく、地震後の生活を考えておくとなると、耐震等級が2や3の建物の方が安心なんですね。
建築基準法は日本で建てる建物の最低基準を定めたものなので、少なくとも耐震等級2、できれば耐震等級3を目指すべきだと思います。
では、耐震等級1の基準が分かったところで、次に耐震等級2・3の建物が持つ耐震性能について説明しましょう。
耐震等級の数値が大きくなるとどうなるの?
耐震等級の数値が大きくなることによる耐震性能の向上は、耐震等級1を基準として表されます。
耐震等級2・・耐震等級1の1.25倍の耐震性能を有する
耐震等級3・・耐震等級1の1.5倍の耐震性能を有する
そのため、耐震等級3の建物であれば、「震度5強程度の1.5倍の地震に対して構造躯体にほとんど損傷を生じるおそれがなく、震度6強から7程度の1.5倍の地震に対して構造躯体が倒壊・崩壊するおそれのない耐震性能」を備えていることになります。
耐震等級をアップするメリット・デメリット
高い耐震等級の建物といえば、「地震に強い」というメリットばかり目を奪われガチですが、耐震性の向上にもデメリットがないわけではありません。
後で悔やまないよう、耐震等級をアップさせるメリット・デメリットを知っておきましょう。
□メリット
- 地震に対して強くなる
- 台風や強風による揺れが軽減される
- 住宅ローン金利の軽減(フラット35S 等)
- 地震保険の割引率UP(耐震等級2 30%OFF 耐震等級3 50%OFF 等)
■デメリット
- 建物の設計・構造強化よる建築費用UP
- 証明書申請・検査等による費用UP・期間延長
- 柱の少ない大空間・吹き抜けが設けにくい
- 建物の形状がある程度制限される
- 重量のある屋根材(瓦等)を採用しづらい
※地震保険や住宅ローン金利の軽減や必要書類については、契約する金融機関・保険会社によって異なります
「地震に対して強くなる」や「保険料・金利が低減できる」のは魅力的だけど・・建築費用UPは辛いなぁ~
ちなみに、どのくらいの費用UPを考えておけばイイんですか?
基準となる建物の構造や仕様・強度によって異なるので、一概に言えませんが、
構造材の強度UPや構造計算などを考えると、木造であれば建物一坪当り2~3万円UPを目安としておけばいいでしょう。
ですが、「間取りなどの空間設計」と「構造躯体の強度設計」は相反する部分が多いのを忘れないでくださいね。
そっか~、耐震等級をUPさせると、建物の形状や間取りなんかが制限されるかもしれないんだ!
じゃあ、耐震等級を幾つにするかは、建物のプラン設計を進める前に決めておくべきですよね。
その通り!建物の「耐震性」と「間取り・形状」は相反する関係なんです。
それに、建物の構造形態(木造・鉄骨造・RC造)によっては、実現不可能だったり、大幅な費用増加が避けられないこともあるので、プラン設計が始まる前に耐震性能に対する考えを設計担当者に伝えておきましょう。
でないと、建物の「耐震性」と「間取り・形状」のどちらかを妥協することになるかもしれませんよ。
耐震等級〇相当・・”そうとう”というセールストークに注意!!
では、冒頭で申し上げた「耐震等級〇相当の注意点」について説明しましょう。
「相当」という言葉を利用して、あたかも実際の耐震性能を満たしているかのような説明で売り込んでくる住宅営業マンもいるので、注意してくださいね。
エッ!「相当」って、同程度を意味する言葉じゃないんですか!
注文住宅のカタログに、「耐震等級3相当」って記載されていたら、「地震に強い家」だと思い込んじゃいますよ~
本来、「相当」は「ほぼ等しいこと」を表す言葉なんですが・・
ひどい住宅会社になると、簡易的な壁量計算だけで「耐震等級〇相当」と売り出していることさえあるんです。
他にも、上級スペックやモデルハウスの耐震等級を示していたり、おおよその予測だったりすることも珍しくありません。
だって、建物の構造や形状・間取りが決まっていなければ、耐震等級を計算しようがないですからね。
じゃあ、本当の耐震等級を知るためには、何を確認すればイイんですか?
証明書みたいなものでもあるんですか?
※木造三階建て等、規模の大きな建物では認められていない
耐震等級を証明する方法は?
実際の耐震等級を評価するには、水平力だけでなく、鉛直力に対する構造の安全性が確認できる、俗に「構造計算」と呼ばれる方法を用いるのが一般的です。
そして、構造計算には下記の4つの計算方法があります。
- 許容応力度計算
- 保有水平耐力計算
- 限界耐力計算
- 時刻歴応答計算
構造計算を用いない場合、四号建築物(一般的な木造二階建て等の規模の小さな建物)であれば、
「壁量の確保」や「耐震壁線間の距離」「床組み等の強さ」「接合部の強さ」「小屋組・床組・基礎その他の構造耐力上主要な部分の部材の種別・寸法・量及び感覚」「構造強度」といった仕様規定を満たすことで、耐震等級3を取得することも可能です。
ですが、最近は構造計算ソフトを扱える設計者が増えており、あまり目にする機会がなくなりました。
「住宅会社がどの計算方法を採用しているか」までを知る必要はありませんが、
基本的に、構造計算を行っていない建物については、「本当の耐震等級の数値を知る術はない」と覚えておいてください。
そうすれば、「耐震等級〇相当」という曖昧なセールストークに惑わされることはなくなりますよ
でも、マイホームの間取りや形状が決定しないと、「耐震等級が幾つになるか分からない」のは不安だなぁ~
だって、構造計算の結果、求める耐震等級が得られず、「地震に強い家にできない」なんてことになったら、目も当てられませんよ。
経験豊富な設計者であれば、建物の構造や間取り・形状を見れば、どの程度の耐震等級が実現できるか一目両全なので、事前に説明してくれるでしょう。
それに、使い勝手を考えたうえで、「柱」や「梁」「耐力壁」のサイズや配置を変更したり、建物の階高調整をしたりなど、大幅な変更が出ないように工夫することも可能です。
ですが、構造設計を外部委託しているなど、建物の構造にチンプンカンプンな設計者しかいない住宅会社もあるので注意してくださいね。
経験豊富な設計者って、間取りやデザインを考えてくれるだけじゃなくて、建物の耐震性能にまで気を配ってくれるんだ。
マイホームの「耐震性」と「間取り・形状」を両立させたいなら、設計者のスキルにも注目して、住宅会社を選ぶ必要があるんですね!
その通り!理想のマイホームを手に入れるには、住宅会社の実力を見抜く目を持つことが非常に大切です。
最後に、耐震等級UPによる金銭的優遇を受けるために欠かせない手続きについて説明しますね。
金銭的な優遇を受けるためには公的な証明が必要
建物の構造計算を行えば、「マイホームの耐震等級が幾つなのか?」は明確になります。
ですが、それだけでは「住宅ローン金利の軽減」や「地震保険の割引率UP」の恩恵を受けられません。
というのも、このような金銭的な優遇を受けるためには、耐震等級を証明する書類の提出が欠かせないんです。
そのため、構造計算による建物強度の計算が正しいことを証明する、「設計住宅性能評価書」や「建設住宅性能評価書」「認定長期優良住宅建築証明書」などの取得が必須となります。
(あまり知られていませんが、住宅金融支援機構のフラット35の利用するために欠かせない「フラット35適合証明書」を耐震性で取得すれば、公的な証明書と認めてくれる金融機関や保険会社が増えています。)
ですが、公的な証明書の発行には申請期限があることが多く、マイホームの工事が着工してからでは手遅れとなることがほとんどです。
耐震等級の向上による、「住宅ローン金利の軽減」や「地震保険の割引率UP」を考えているなら、事前にどのような証明書が必要か、金融機関や保険会社に確認しておくことをおススメします。
家づくりって、知らないと損したり、取り返しがつかなくなることが多いんだなぁ・・
でも、住宅会社に任せておけば、住宅営業マンから説明してもらえますよね・・
残念ながら・・住宅営業マンから「詳しい説明」や「注意喚起」を必ず受けられると思わないほうがいいですよ。
というのも、家づくりに関わる知識は多岐にわたるので、プロといえども知っているとは限りません。
それに、打合せの省力化を進める住宅会社も増えており、小さな文字で記載された書類を渡されるだけってことも考えられます。
説明義務があるわけではないので、住宅会社の担当者に依存しすぎるのは危険ですね。
そうなんですか!住宅会社に任せっぱなしは危険なんですね。
マイホームは、一生に一度かもしれない大きな買い物だけに、失敗したくないし・・僕がしっかりしないと!
知らないことは気が付きようがありません。
まずは広く浅くでかまわないので、家づくりに関する様々な情報を集めましょう。
たくさんの情報から取捨選択し、自分たちの理想のマイホーム像を見いだすのが、家づくりを成功させる早道ですよ!
■ 建物の「耐震性」と「間取り・形状の自由度」は相反するため、両者を両立し難い
■ 地震に強い家を求めるなら、プラン設計を始める前に設計担当者へ要望を伝えておこう
■ 地震保険や住宅ローン金利の優遇が受けられない、根拠のない「耐震等級〇相当」に注意!