■ マイホームの「気密性能」や「省エネ性能」に興味がある人
■ 家づくりで失敗や後悔したくない人
こんにちは!建築士のしみゆうです。
前回は、「温熱環境のいい家」を見極めるために必要な「Q値(節損失係数)」や「UA値(外皮平均熱貫流率)」について紹介しました。
ですが、本当に「温熱環境のいい家」を手に入れようと思ったら、「Q値」や「UA値」だけに注意していてもダメなんです。
では、質問です。
あなたは「C値(隙間相当面積)」という建築用語をご存知ですか?
これから家づくりを始めようと思っている方はもちろん、現在家づくりを頑張っている方でも、ほとんど耳にしたことがないかもしれませんし、
住宅業界に携わっている方でも、キチンと「C値」について説明できる人は少数だと思います。
そんな「C値」と呼ばれる建築用語ですが、実は建物の気密性能を表す重要な指標なんです。
今回は、「住宅業界のブラックボックス」とも言われている、「C値(隙間相当面積)」について説明しながら、「温熱性能のいい家」の見極め方を紹介したいと思います。
建物の「外壁」や「屋根(天井)」「床」などの各部位から逃げる熱量(熱損失量)を延べ床面積で割ったもの
熱損失量が多い程Q値が大きくなるため、数値が小さい程「断熱性能」や「省エネ性能」が高いと言える
建物の「外壁」や「屋根(天井)」「床」などの各部位から逃げる熱量(熱損失量)を外皮面積(外壁・屋根(天井)・床の面積の合計)で割ったもの
熱損失量が多い程UA値が大きくなるため、数値が小さい程「断熱性能」や「省エネ性能」が高いと言える
住宅業界のブラックボックス」って、なんか凄そうですね。
そんなこと話して大丈夫なんですか?
ブラックボックスは言い過ぎかもしれませんが、「C値」に触れたくない住宅会社が多いのは事実ですし、ちゃんと説明してくれる住宅営業マンもほとんどいません。
まずは「C値」を理解するためにも、住宅の気密性能がどのくらい温熱環境に対して大切かを説明しますね。
C値(隙間相当面積)を超簡単に説明すると・・
「住宅の気密性能」って言われても、なんだか難しそうですね・・
素人の私にも分かるように、超簡単に説明して下さいね。
それでは分かりやすい様に、「住宅を水槽に例えて」説明しましょう。
あなたが水槽に住む金魚だとすると・・住み心地がいい環境って、どんな環境だと思いますか?
私が金魚で、水槽に住んでいるとすると・・
広くて、たっぷりの水が入っている水槽で、優雅に泳げる環境がいいかなぁ?
なるほど!
じゃあ、下のイラストのように、「穴が開いていて中の水が漏れてしまう水槽」は、いい環境と言えるでしょうか?
穴が開いていて中の水が漏れてしまう水槽の環境は?
いえいえ、このままじゃ水がなくなって住めなくなってしまうかもしれませんよね。
こんな水槽だと、とてもいい環境とは言えないと思います。
そうですよね。
でも、この「穴が開いていて中の水が漏れてしまう水槽」っていうのが、一般的に建てられている、「現在の戸建住宅」なんです。
「水槽の穴」が「建物の隙間」であり、「水槽の水」が「快適で過ごしやすい温度の空気」なんですよね。
「水槽の穴」が「建物の隙間」で、「水槽の水」が「快適で過ごしやすい温度の空気」ってことは・・
隙間の少ない建物が、気密性能が高くて、快適で過ごしやすい住宅ってことですね!
その通り!
住宅の気密性能をUPすると、「快適で過ごしやすい温度の空気」が逃げにくくなるため、「UA値の低い建材(断熱性能・省エネ性能の高い材料)」と合わせることで、「温熱環境のいい家」になるんです。
住宅の気密性能って、「温熱環境のいい家」には必要不可欠なんですね。
じゃあ、「気密性能の低い住宅」で快適に過すには、どうしたらいいんですか?
それは、多くの住宅会社が今まで推奨してきた住宅のことなのですが・・
では、同じように「水槽に住む金魚」で例えてみるので、下のイラストを見てくださいね。
中の水が漏れている水槽に蛇口から水を足している場合の環境は?
このイラストのように、外に漏れ出してしまった「水(快適で過ごしやすい温度の空気)」以上の量を「蛇口(エアコンなどの冷暖房機)」から補っているのが、大多数の「温熱環境のいい家」の実状なんです。
じゃんじゃん「水(快適で過ごしやすい温度の空気)」を追加しているので、水が漏れていることに気付かず、「温熱環境がいい家」と感じているだけなんですよね。
つまり、現在の「温熱環境のいい家」と言われている住宅でも気密性能が低ければ、実際は「穴が開いていて中の水が漏れてしまう水槽」に住んでいるのと変わりません。
エ~ッ!
でも、「断熱性能が高い(UA値が小さい)住宅」は、「温熱環境がいい家」なんですよね。
確かに、「エアコンなどの冷暖房機(水)」をガンガン追加すれば、「室内(水槽)」は快適に保てますが、省エネとは程遠く、光熱費が莫大にかかりますし、お世辞にも環境に優しいとは言えません。
それに、よく考えてください。
住宅の断熱性能を高める目的は、「外気の温度などから受ける影響を少なくする」ためですよね。
しかし、建物の気密性能が低ければ、室内の空気が勝手に外に出てしまうので、どんどん外気が室内に侵入してきてしまいます。
そっか!住宅が隙間だらけだったら、外の空気が室内に入ってきてしまいますよね。
じゃあ、断熱性能だけを高めても意味がないんじゃないですか?
そうなんです。
「温熱環境のいい家」を手に入れるために、「断熱性能を高める(UA値の低い建材を取り入れる)」ことは意味がないとまでは言いませんが、
「気密性能を高める(C値を小さくする)」ことを意識しなかったり、忘れたりしてしまうと、せっかくの断熱性能が半減してしまうのは言うまでもありません。
じゃあ、本当に「温熱環境のいい家」を手に入れるには、どうしたらいいんですか?
では、これまでと同じように、「水槽に住む金魚」で例えてみましょう。
下のイラストを見て、どう思いますか?
中の水が漏れない穴の開いていない水槽の環境は?
水槽に穴が開いていないから、水が漏れていないので、快適そうですね。
そうですよね。
ただ、これは単純に、水槽の「穴を埋めて水を漏れないようにした」だけなんです。
ホントだ~!
じゃあ、住宅も隙間を埋めて気密性能を高めたら、「温熱環境のいい家」になるんですね。
その通り!
「温熱環境のいい家」を手に入れるためには、まず「気密性能UP(C値を小さく)」することが大切なんです。
その上で、「断熱性能UP(UA値を小さく)」すれば、より外気の影響を受けにくくなりますし、エアコンなどの使用頻度も減るため、「省エネ性能UP」に繋がり、余計な光熱費もかかりませんし、環境にも優しくなるんです。
「断熱性能UP(UA値を小さく)」する前に、「気密性能UP(C値を小さく)」することが大切なんですね。
やっと以前おっしゃっていた、「いくらマイホームのUA値を意識して断熱性能をUPしても、『温熱環境のいい家』が手に入るとは限らない」っていうことの意味が分かりました。
でも、住宅会社も「温熱環境のいい家」には気密性能UPが必要なのは分かっていますよね。
じゃあ、なんで住宅会社はC値について触れたがらなくて、住宅営業マンもちゃんと説明してくれないんですか?
では、冒頭で私がC値のことを「住宅業界のブラックボックス」と言った理由を話しましょう。
建物の延べ床面積に対する「隙間の面積」の割合を表す値で、延べ床面積1㎡中に何㎠の隙間があるかを知ることができる
C値が0ならば隙間が全くないことになり、数値が大きくなるほど気密性が低く、温熱環境が悪いことを示す
住宅業界のタブー!?多くのハウスメーカーがC値を説明しない理由
以前お話ししたように、
建物の形状などにもよりますが、外皮計算(UA値の算出)に慣れた建築士なら、1~2時間程度で概算のUA値が出せますし、
外皮計算を渋るようなら、自社の建物のUA値に自信がないか、UA値の算出方法を知らない可能性が高いので、住宅会社選びの目安にすることもできるんです。
住宅のUA値(外皮平均熱貫流率)は、「外部面に使用している建材のU値(熱貫流率)」と、「建物の大きさ・形状(外気に触れる総面積)」さえ分かれば、事前に算出できます。
「UA値」はマイホームの計画段階で算出できるため、自社の建物の優位性をアピールしやすく、お客さんにとっても比較対象にしやすいので、住宅会社の実力を見極めるのに誂え向きな指標とされています。
なので、住宅会社はこぞって自社の建物の断熱性能を高めることで、性能の高いマイホームが欲しいお客さんに購入してもらえるように、アピールしてくる傾向にあるんです。
もちろん、「断熱性能」や「省エネ性能」を高めるためには、「気密性能UP」が必須条件なのは分かっていたハズです。
しかし、大多数の住宅会社は、「気密性能」には触れたくありませんでした。
何故かと言うと、「気密性能UP」を図るためには、建物を建てる現場での「施工精度UP」が必要不可欠だからなんです。
と言うのも、断熱性能を表すUA値は、事前に計算で数値を表示することができますし、性能の高い建材を取り入れれば、それまで以上の性能を求めることも難しくありません。
しかし、気密性能を表すC値は、実際の現場で検査測定を行わないと数値を表すことができないので、建築工事がある程度終わらないと算出できませんし、
もし、施工精度が低いために、「気密性能の悪いC値」になっていたら、工事をやり直さないといけません。
このように、気密性能の高い住宅を建てるには、職人さん達の「技術力」や「施工精度」に求められる水準の高さが絶対条件となり、実際に現場を仕切る現場監督の力量にも大きく影響されてしまいます。
しかし、「注文を受けた住宅の建築工事を下請けの工務店に依頼するハウスメーカー」や「技術力の低い住宅会社」は、気密性能の高い住宅を建てる自信はありませんし、
工事請負契約時に気密性能(C値)を保証するリスクも負いたくありません。
なので、大多数の住宅会社は「気密性能」の重要さをアピールしたがりませんし、契約を取らないと給料が貰えない住宅営業マンもC値をちゃんと説明したがらないんです。
これが、C値が「住宅業界のブラックボックス」と呼ばれる由縁です。
エ~ッ!
じゃあ、気密性能が高い「温熱環境のいい家」を手に入れることはできないんですか?
慌てないでください。
もちろん、「温熱環境のいい家」に高い気密性能が欠かせないことは分かっているので、「気密性能UP」に力を入れている住宅会社がないわけではありませんし、近年かなり増加しています。
それに、一早く気密性能UPに取り組んで、ここ数年で販売棟数を飛躍的に増やしている「住宅会社」や「大手ハウスメーカー」もあるんです。
でも、住宅の気密性能をUPするためには、職人さん達の優れた「技術力」や「施工精度」が必要不可欠なんですよね。
それじゃあ、建物自体の価格も凄く高くなっちゃうでしょうから、私達では簡単に建てられないんじゃ・・
そんなことはありません。
住宅の気密性能をUPするには、「建材と建材の接合部に気密テープの施工」などが必要なので、多少なりとも「費用」や「建設期間」は余分に生じますが、
最も大切なのは、「施工の丁寧さ」や「いい家を建てようとする想い」なので、住宅会社選びさえ間違わなければ、手に入れられないわけではないんです。
ホントですか!
じゃあ、実際に気密性能が高くて、「断熱性能」や「省エネ性能」の高い「温熱環境のいい家」を手に入れるためには、どんなことに気を付けたらイイんですか?
住宅営業マンは、自社に都合の悪いことを話してくれませんよ。
手間いらずの注文住宅の情報収集法についても解説してます^^
住宅形態別の一般的なC値(隙間相当面積)の目安
では最初に、一般的な住居の構造別の「C値(隙間相当面積)」をご紹介しましょう。
ただ、建物の気密性能には、職人さん達の「技術」や「施工精度」が大きく影響するため、あくまでも平均的な完成度での数値となりますので、ご注意ください。
- 木造住宅・・5.0~10.0 ㎠/㎡
- 鉄骨系・木質系住宅・・5.0 ㎠/㎡程度
- RC(鉄筋コンクリート)住宅・・1.0~1.5 ㎠/㎡
- 気密施工を施した住宅・・0.3~0.5 ㎠/㎡
よく「マンションは快適」って話を聞くんですけど、やっぱり温熱環境がイイんですね。
これまでの話を聞いて、C値が小さければ小さい程、気密性能が高いってことは分かったのですが、
実際には、どのくらいの隙間が開いているんですか?
確かに、実際に隙間の大きさが分かった方がピンときますよね。
C値は住宅の延べ床面積1㎡あたりの隙間を表しているので、よくある戸建住宅の大きさに近い、延べ床面積が100㎡(約30坪)の住宅で計算してみましょう。
- 木造住宅・・500~1000 ㎠(バスケットボール~直径35㎝のビーチボール)
- 鉄骨系・木質系住宅・・500 ㎠程度(7号バスケットボール)
- RC(鉄筋コンクリート)住宅・・100~150 ㎠(ソフトボール~直径14㎝の円)
- 気密施工を施した住宅・・30~50 ㎠(テニスボール~野球の硬球)
※延べ床面積を100㎡で換算した場合の隙間の合計面積
エ~ッ!そんなに違うんですか!
バスケットボールくらいの大きさの穴が開いていたら、外の空気が入り放題ですよね。
そりゃ、いくらエアコンをガンガンに効かせても効果がないハズだ。
おっ!ボールに例えたらピンときたようですね。
ついでに「断熱工法別のC値(隙間相当面積)」もご紹介しますので、家づくりの参考にしてくださいね。
- グラスウールによる壁内断熱・・5.0~10.0 ㎠/㎡
- ウレタンフォームによる外張り断熱・・0.5~5.0 ㎠/㎡
- 発泡ウレタンによる吹き付け断熱・・0.4~2.0 ㎠/㎡
- 防湿気密シートを使った断熱・・0.2~1.2 ㎠/㎡
※上記の数値は一般的な施工精度によるもので、数値を保証するものではありません
同じ構造の建物でも、断熱工法の違いによって、こんなに気密性能が変わるんですね。
それに、建物が完成しないと数値が出ないんだから、「住宅会社が何故、C値に触れたくないか」よく分かりました。
断熱性能を表すC値について、基本は理解できたようですね。
では最後に、「断熱性能」や「省エネ性能」の高い住宅である、「温熱環境のいい家」を見極める簡単な方法をお教えしましょう。
「温熱環境のいい家」を見極める簡単な方法ーまとめ
少々おさらいしますが、
「真の温熱環境のいい家」というのは、「住宅の隙間から入る外気の影響」や「住宅の隙間から出ていく快適な空気」を補うほどの「冷暖房設備が強化」された家ではありません。
「気密性能が高い(C値が小さい)」ということを前提に、「外気の流入による影響を受けにくい」や「室内の快適な空気が放出されにくい」といった条件を満たした上で、
「断熱性能の高い(UA値の小さい)」建材を採用し、「外気との温度差の影響を受けにくい」や「快適な温度になった空気を保ちやすい」といった能力が高く、「省エネ性能の高い」住宅こそが、「真の温熱環境のいい家」と言えるんです。
なので、マイホームを「偽り」や「誤魔化し」のない、「真の温熱環境のいい家」にしたいのなら、
マイホームを建てる候補にする住宅会社の営業マンに、「C値(隙間相当面積)」や「UA値(外皮平均熱貫流率)」に対しての「知識」や「見解」を聞いてみてください。
そして、話をはぐらかすことなく、真摯に答えることができ、実際に建てた建物の「C値」や「UA値」の優秀な住宅会社だけをふるいにかけるんです。
そうすれば、本当の意味で「温熱環境のいい家」を手に入れることができるでしょう。
中には、気密性能を高くすると「息苦しくなる」や「二酸化炭素などの不純物が排出できない」などと言う住宅営業マンがいるかもしれませんが、そんなバカなことはありません。
現在の住宅では「24時間換気」が義務付けられているため、C値が0で全く隙間がなくても、2時間に1度は居室の空気を入れ替えられるだけの換気機能が備わっています。
その他にも、住宅の気密性能の説明をしないくせに、
24時間換気に「性能の高いフィルターを使っているから『花粉症』や『PM2.5』などの心配はありません。」なんて説得しようとする住宅営業マンの話しも信用できません。
と言うのも、いくら「性能の高いフィルター」を使っていても、「気密性能が低い(C値が大きい)」建物だったら、フィルターから「花粉」や「PM2.5」が入ってこなくても、建物の隙間から「花粉」や「PM2.5」が入り放題のハズです。
もちろん、「第一種換気による熱交換機能」も例外ではありません。
※熱交換機能についてはまた後日
このように、自社に「都合の悪い事実を説明しない」や「都合のいいようにはぐらかす」といった、「住宅会社」や「住宅営業マン」が多い、というのが悲しい現状です。
「一生に一度かもしれない家づくり」なのですから、「失敗」や「後悔」しないように、自分達家族にとって、本当に必要な「機能」や「条件」は何かを取捨選択し、しっかりとした「情報収集」や「事実確認」を行ってください。
そうすれば、「温熱環境のいい家」だけでなく、本当に自分達家族が望んだマイホームを手に入れることができますよ。
いやぁ~今回は濃かったですね!
でも、本当に「温熱環境のいい家」が、どんなものか分かりました。
それは素晴らしい!
まだまだ様々な実例がありますが、今回と前回の記事を読んでもらえれば、「C値」や「UA値」の基本的なことは理解できると思います。
大変かもしれませんが、理想のマイホームを手に入れるためも意識してみてくださいね!
「【住宅の断熱性能】C値(熱損失係数)やUA値(外皮平均熱貫流率)」についての詳細へは、下記のリンクから移動できます。
■ 「気密性能をUP(C値を小さく)」しないと、「断熱性能」や「省エネ性能」もUPしない
■ 「UA値」や「C値」を尋ねれば、その住宅会社の「温熱環境のいい家」への取り組み具合が分かる
■ 「断熱性能」や「省エネ性能」の高い住宅を手に入れたければ、「気密性能の高い(C値の小さい)建物」が建てられる住宅会社を探すことが重要